「おじさん、車を回してきましたよ。帰りましょう」
甥の声に、勉の意識は過去から現在へと呼び戻された。
少々ぼんやりしていたせいだろうか、甥が首をふって勉の手を取る。
「おじさん、やっぱり今夜は家に泊まってください」
「誰に似たのか。お前は心配性だね。大丈夫、大丈夫だよ」
そう、心配はいらない。
何故なら、勉の手には日咲子と二人で見つけてきたものが、しっかりと握られているのだから。
日咲子と共に暮らした日々。同じものを違う角度で見つめ、しかし同じ思いを共有し、人生を織り上げてきた。
勉の中には、今も日咲子の生き方が、魂が息づいている。それは残響となって、勉の全身を震わせるのだ。
だから、大丈夫。
甥と共に車に乗り込みながら、勉は日咲子の登った冬の空を振り仰いだ。
「明日は、クラムチャウダーを作ってみるよ」
了