今日も、ひらひらと雪が舞っている。 そんなカレブの前では、リカルドがあーんと大口を開けて天を仰いでいる。 「なにやってんの」 限りなく冷たい声でカレブは言った。 うん? とリカルドは振り向く。 「ガキの頃、雪を食べてみたいと思っていたのを思い出してさ」 「それで、まさか、実践してたの?」 「ひどく美味いんだろうなって思ってたけど、無味だな」 当たり前だろう。 「たくさん集めて、グラスに盛って、果汁か、糖蜜をかければ、美味いかもしれん」 「能天気」 ぼそりと呟くと、カレブは歩調を速めた。 迷宮の入り口では、グレッグとキャスタが二人を待っていた。 「あんた、アレと同じだよ?」 うぐう、とリカルドが嫌な顔をした。 「カレブ」 瓦礫に腰掛けていたグレッグが立ち上がり、カレブに包みを手渡した。 後ろから覗き込んでいたリカルドが、へえ、と声をあげる。 「なかなかの品だな。さすがは忍者。目利きだ」 「同じ品でも、よくよく見れば使えるものと使えないものに分ける事が出来る」 「ヴィガー親父の店で買ったのか?」 「ああ。昨日はリカルドに散財させたからな。今日は私が、というわけだ」 カレブは、手投げナイフをベルトに下げながら呟いた。 「くれるものは、ありがたくもらっとくけど、期待はしないでよ。というより、ぼくが戦わなきゃいけないような状況にはしないでくれ」 無論、とグレッグは頷く。 「ただ、今日は「あの場所」に行く。・・・私がまた役立たずにならないとも限らないしな」 「まあ、仮にそうなったとしても、俺がなんとかするって。それは、お守りとでも思っとくんだな」 そうなればいいけど。 |
魔物達と戦いながら、一行は迷宮を進んだ。リカルドとグレッグはお互いの攻撃のクセがわかり始めたのか、昨日よりも随分息のあった戦いをする。おかげで、カレブは手を出す必要もなく、見物を決め込む事が出来た。 「この先だ」 グレッグは、すっと前方を指し示した。 リカルドが、チラリとグレッグの表情をうかがう。 「怖い、か?」 スッとグレッグの漆黒の瞳が細くなった。 「・・・そうだな。怖くない、と言えば嘘になるだろう。一度焼きついた恐怖は、古い傷のように鈍く、痛む。ましてや、あそこは、この不可視の傷が刻み付けられた場所」 リカルドのその言葉に、カレブは眉を跳ね上げた。 「冗談! ずるずる引き延ばされてたまるもんか。行くって言ったのは、あんただろ? 自分の言葉に責任持てよ」 カレブはさっさと歩き出した。 「来い! 逃げてたら、いつまでもそのままだ。負け犬でいいのか!」 グレッグの顔が険しくなる。 「まあ、いいか。あれで、乗り越えられるんなら」 キャスタが、リカルドの足を突っつく。 「あんだ・・・、大変みたいだど」 「お、わかるか? ワガママ盗賊と、慎重すぎる忍者。なかなか世話がやける。でも、まあ、面白くもある」 キャスタは深く頷いた。 「なるほど。ようするに、あんだ、物好きなんだべ」 リカルドは唇をゆがめた。 「・・・せめて、イイ人と言ってくれ」 「リカルド!!」 鋭い声が迷宮に響き渡る。 「置いていくぞ!」 ふ、とリカルドは笑う。 「あーあ、いい顔してらあ。あいつ、怒ったほうが綺麗だと思わないか?」 尋ねられて、カパッとキャスタの口がまぬけにあいた。 |