バン! と勢いよくカレブが扉を開けると、風にあおられた雪が、乱暴に舞っていた。
冷たい風が、頬を切るように吹き抜けていく。酷く、視界が悪い。 「・・・外?」 両腕で顔をかばいながら、カレブは呟いた。 「そうだ」 スッとカレブの前にグレッグが立つ。幾分、風の勢いが殺されて呼吸がしやすくなった。 「迷宮の一階には、このように外とつながっている場所がある」 「風、強くなってるな。視界がきかない」 追いついてきたリカルドが、用心深く辺りを見渡した。 「あの時も、そうだった」 力強く踏み出したグレッグのその一歩は、風に抗うためか、過去に抗うためなのか・・・ 「一人で迷宮を探索していた私は、ここに下層への近道があると聞いて調べにきた」 舞い散る雪の中をグレッグは進む。 「この祭壇だ。私は、これに気を取られ、注意をおろそかにした。そして・・・」 「ねえ」 グレッグを見守るリカルドの服のすそを、カレブは引っ張った。 「静かにしてろよ」 「あれ。・・・骨、じゃないのか」 「え?」 カレブが指差したのは、祭壇の陰で雪に埋もれて転がっている髑髏だった。 「あわわわわ」 ガタガタとキャスタが震え出す。 「そして、魔物に襲われた」 グレッグの手が翻った。 「そう、こいつだ」 リカルドが剣を抜き放ち、白い闇を睨む。 カレブは、身体を起こす獣に目を奪われた。 白い毛皮に覆われたしなやかな身体。鋭い爪。全体的なイメージは、巨大な猫だ。 もっとも、長く牙が伸び、獣の耳を生やすそれを、人間の女と呼ぶのなら、だが。 「ボギーキャットかよ!」 叫びながら、リカルドは剣を振るう。 「嫌な相手だ。カレブ、気をつけろ!」 リカルドの顔が真剣になっていた。 充分に距離をとってから、カレブはダガーを構える忍者に尋ねた。 「グレッグ。あんた、こうなる事、わかってたね?」 「ああ。私は、あの時をやり直すつもりだ」 チッとカレブは、舌打ちする。 「ぼくを、巻き込むなよ!!」 「だども、さっさと進んだのは、カレブだべ」 キャスタの言葉に、ハハハ、とリカルドは笑う。 「そのとおりだ!」 ジャッという鈍い音と共に、リカルドの剣がボギーキャットの腹を切り裂いた。 威嚇のうなり声が響き渡る。 「これも依頼の一部だと思って諦めるんだな。まあ、お前は防御に徹してろ。魔物は俺達が倒す!」 キャスタと共に戦況を見つめながら、カレブは唇をかみ締めた。 敵は、ボギーキャット四体。 「冗談じゃないぞ」 カレブは呟く。 グレッグとリカルドが死ぬのは勝手だが、そうなると一人で手負いの魔物を相手にしなくてはならない。 「不本意だけど・・・、すごく、すごく不本意だけど・・・」 カレブの手が、腰間へと伸びる。 「協力してやる。死にたく、ないからだ!」 空を裂く小気味良い音と共に、手投げナイフが銀色のきらめきと化した。 |