戦闘で手に入れた妖鳥の爪やら、スライムの粘液やらをギルドで見せ、褒賞をもらったカレブは驚いた。 「へえ、こんな物が、これだけのお金になるの」 「な。けっこう、もうかるだろ?」 リカルドは、得意げにそう言った。 ぷっ、とカレブが笑ったので、リカルドは眉間に皺を寄せた。 「・・・今、手前がなんて思ったか、当ててやろうか」 「うん?」 「単純だなあ。とか、思っただろ」 「違うよ」 お? とリカルドは意外そうな顔をする。 「そうか、俺はてっきり・・・」 「単純で、わかりやすくて、子供みたいだなあって思ったんだ」 「あ、そ」 リカルドの顔が引きつった。 本当にわかりやすい奴だ、とカレブは思った。 「まあいいや。これで、手前も宿代には困らないだろ。良かったな」 無骨な手が、くしゃりとカレブの頭を撫でた。 これだけ言ってもへこたれないとは、根性があるのか、本気で馬鹿なのか。 後者だな、とカレブは決め付けた。 さりげなく、リカルドの手をどける。 「じゃあ、今日はこれで解散?」 「ああ、そうだな。グレッグもそれでいいか」 「・・・ああ」 言葉少なにグレッグは答える。 やっと一人になれる、とカレブはほくそえんだ。 群れるのが嫌いなカレブは、本当にうんざりしていたのだ。 「どうした、元気ないな」 リカルドがグレッグの顔を覗き込む。 「いや・・・」 グレッグは苦笑しながら、首を振る。 「まだ、落ち込んでるのか? まあ、確かに今日の探索は上出来とは言えないが」 今日は結局、魔物との戦闘にてこずり、一階の最深部まで行く事は出来なかった。 一歩進むごとに精彩を欠いていくグレッグが原因だと、言えなくもない。 「迷惑をかけた。すまない」 低い声でそう言うと、グレッグは歩き出した。 「待てよ、一人で抱えんなって。なんの為のパーティだよ」 いやな雲行きを感じて、カレブはそっとその場を離れようとした。 ひょいと伸びたリカルドの左手が、カレブの襟首をつかむ。 「よーし。それじゃ、酒場で一杯やりながら反省会だ!」 「冗談だろ、放せよ! 飲みたきゃ二人で行け!」 リカルドはニヤニヤと笑った。 「まあ、そう言うなよ。おごってやるからさ」 「おごり?」 「ああ」 カレブは、天使のような笑みを浮かべて見せた。 「じゃあ、行く。でも、遠慮はしないよ」 一番高いのを頼んでやる。 |
月夜亭の丸テーブルに着いたとたん、カレブはそそくさとメニューを広げた。 「注文、頼むぜ」 「はい」 「エールを壷ごと。後は、ソーセージの盛り合わせに、ベイクドポテト。それからとうもろこしの粥。三人前ね。あー、それで、こいつにはマルメロ酒でも持ってきてやって」 「かしこまりました」 カレブが口を挟む間もなく、注文は終わった。 「勝手に人のまで決めるなよ!」 カレブは椅子に座ったまま、リカルドの向う脛を蹴る。 「いってえな! 手前は良く知らないだろうから、美味い物食わせてやろうって言う親ゴコロだろ!」 「誰が、親だ。誰が!」 「それに、高いもの頼まれちゃあ、やってられないからなあ」 「それが、本音だろ・・・」 見事にたくらみをつぶされたカレブは、ふてくされた。 まず運ばれてきたのは、酒だった。 リカルドが、グレッグにエールを注いでやっている。 カレブは、自分の前に置かれた果実酒を口に含んだ。 マルメロを酒に漬け込んだそれは、味がよくこなれていて飲み易い。 「美味いや」 カレブは、小さく呟いた。 顔を伏せていたカレブは、リカルドが、ちらりと満足そうに自分の方を見た事には、気づかなかった。 熱い料理が、次々と運ばれてくる。 狭いテーブルは、あっという間に埋め尽くされた。 料理を食べながら、リカルドはあれやこれやとグレッグに話しかける。 カレブは、ソーセージをかじりながら、珍しい物でも見るかのようにリカルドを見ていた。 どうして、こんな風に、ごく当たり前といった感じで、人に優しく出来るのかな。 リカルドは、まったくカレブの理解の範疇を超えた所に居た。そして、それがカレブをイライラさせる。 では、何故。 カレブは、ぼんやりと自分の心に問いかけた。 戦士が・・・・・・ 甘い、と思う。 ぼくは、生きるために、いろいろな物を捨てた。 なのに、リカルドは、それを手にしたまま戦士として生きている。 ・・・・・・ああ、だから。 クスリとカレブは笑った。 だからぼくは、この男が嫌いなんだ。 それは、なかなかに面白くない答えだった。 |