カレブの手投げナイフの一撃は、リカルドめがけて放たれたボギーキャットの攻撃を見事に防いだ。ボギーキャットは、肩に深く食い込んだそれを忌々しそうに睨み付ける。 残った手投げナイフは、あと四本。 「四回だ」 ボギーキャットから視線を外さず、カレブは言った。 「四回、ぼくが攻撃を止めてやる。だから、その隙に倒せ」 「わかった。頼むぜカレブ」 剣を握りなおしながらリカルドが呟き、グレッグは無言で頷いた。 ボギーキャット達は体勢を低くし、毛を逆立てている。 カレブは肩の力を抜きながら、呼吸を整える。 ゆるゆると緊迫した空気が流れ・・・・・・、そして、突如爆発した。 ボギーキャットの強靭な後ろ脚が、地を蹴る。
のけぞるボギーキャットに、すかさずグレッグがダガーの一撃を食らわせる。 これで残るは三体。 グレッグは、自身に挑みかかるかのように、ぐっと前へ踏み出した。 忍者の攻撃は素早い。 グレッグがその域に達するには、まだ長い修行の時を必要とするだろう。 連続して繰り出される爪を紙一重でかわしながら、機を見て攻撃をしかける。 そのグレッグの戦う姿が、ふと、誰かとかぶった。
キャスタの叫び声で、ハッとカレブは我に返った。 一匹のボギーキャットと取っ組み合うリカルドを狙い、もう一匹が跳躍しようとしている。 「させるかっ!」 カレブは、ナイフを放った。 一本は、リカルドの頬すれすれを飛び、牙をむくボギーキャットの額に突き刺さった。 額を貫かれたボギーキャットは、白目をむくと、ぐったりと前かがみに倒れた。 「おわわわわっ!」 避け損ねたリカルドが下敷きになる。 「カレブっ!」 倒れたまま、リカルドは叫んだ。
カレブの手に、ナイフは、もうない。 ボギーキャットは残忍な笑みを浮かべ、大きく宙へと舞い上がった。 ボギーキャットの白い身体が、カレブの視界一杯に広がった。 くぐもった悲鳴が、あがった。 「ぼくの勝ちだ」 カレブは、ボギーキャットの喉に柄までもめりこんだ短剣を、無造作にひねった。 「所詮は獣。頭弱いね。武器を全部手放すわけないだろ」 カレブが短剣を引き抜くと、血が三日月のような孤を描いて吹き出した。 キャスタは、恐るおそる閉じていた目を開いた。 「ああ、もう。汚れたじゃないか」 キャスタは、カレブに近寄った。 「カ、カレブがやっただか?」 カレブは皮肉な笑みを浮かべた。 「忍者と戦士が役立たずだからね」 キャスタが振り返ると、グレッグは残っていた一体を倒し終えたところで、リカルドはまだ倒れたまま、じたばたともがいていた。 カレブは、そんなリカルドに駆け寄ると、彼の頭を力いっぱい蹴り上げた。 「まったく、何が任せとけだ、この馬鹿戦士!! もうちょっとで大怪我するところだっただろ!!」 グレッグが苦笑しながら、ボギーキャットの死骸をリカルドの上からどける。 「この、馬鹿、馬鹿、馬鹿!!」 頭を抱えるリカルドに、カレブは子供のように叫び続けた。 「剣士様」 キャスタは、この場にいない己の主人に呟く。 「確かにカレブは強いだども・・・、本当にカレブでいいんだか?」 ぎゃあぎゃあとうるさいハーフエルフの少年を見ながら、キャスタはひたすら不安だった。 |