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NEW TYPO(ニュータイポ)

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――天都ディアマント。街外れの小高い丘の上。


 ひとり神殿を抜け出した愛美は、星明りを頼りに思い出の丘を目指した。

 夜の闇は強張る心をより緊張させる。
 自然と足も速くなった。

「はあ、はあ、はあ」

 最後は半ば駆けるようにして丘を登る。

「……兄さん」

 膝に手をついて息を整えながら、愛美は篤を呼んだ。

「篤兄さん!」

 愛美の声が、余韻を残して夜空に吸い込まれる。訪れる静寂。

「――やはり、昼間のあれは、幻だったのかしら」

 身体を起こし、愛美はため息をついた。
 安堵と、わずかばかりの落胆と。

「やだわ、わたしったら。否定しながら、もしかしたらって、思ってたのね」

「嬉しいよ、愛美」

 まるで、愛美の心の隙をつくかのようなタイミングでその声はした。

 木陰から声の主が、篤が姿を現す。

「兄、さん」

「昼間よりは、少し落ち着いたみたいだね」

 『A』の魂を持つ双子は、片や微笑を、片や緊張を口元にたたえて向かい合った。

 愛美は汗に濡れる手を握り締めて、篤を見据える。

「あなたは、誰」

「君の兄だ」

「兄さんは、死んだわ」

「俺はここにいる」

「あなたは、誰……!」

「若槻篤だ」

「……ッ」

 篤の微笑は、甘い毒のように愛美の心に滴り落ちた。

「信じられないのか?」

 眼差しも。声音も。全てが記憶のままで。

 かき乱される心に、愛美は全身を震わせた。

 篤が一歩を踏み出す。

「信じられないなら、確かめるといい」

 ワナに捕らわれたウサギのように愛美は動けなかった。ただ、篤が近づいてくるのを震えながら見つめることしか出来ない。

「愛美」

 抱きしめる腕が優しい。
 染み渡るこの体温を知っている。
 鼓動が重なる。
 命が、同じリズムで刻まれる。
 共に母の胎内にあった時と同じに……。

「ああ、本当に、兄、さん?」

 辛い記憶が、甘い現実に押し流される。
 非現実が現実にすりかわる。

 篤に抱きしめられる愛美は、その背から闇が吹き上がるのに気づかなかった。

「ねえちゃあんッ!」

 ぴくりと愛美を抱く篤の指先が動く。
 双子の抱擁を邪魔したのは、切羽詰ったアークの絶叫だった。

 はっと愛美の瞳に光が戻る。
 愛美は篤の腕の中で身じろぎし、振り返った。

「ねえちゃん、離れるんだ!」

 駆けつけたアークは、乱れた息を整えもせず叫ぶ。

「あなた、どうして」

「いいから、早く離れて!」

 頭ごなしに命令されて、愛美は腹を立てた。反論しようと口を開くが、愛美より早く篤がアークを制した。

「麗しの再会を邪魔するとは、無粋だぞ、少年」

「!?」

 篤ならざるその声に、愛美は自らを抱くものを見上げる。

 目に映るのは確かに見知った双子の兄の顔。

 だが、しかし。

 篤は口元をゆがめてわらうと、愛美の喉を片手で掴んだ。

「ぐ、あっ」

 ぎりっ、と愛美の喉を掴む手に力が入る。

「く、う、う……」

 なぜ?

 その疑問も口に出来ない。

「愚かなり、騎士アミ」

 ふわりと愛美の爪先が持ち上がった。
 宙に掴み上げられて、愛美が暴れる。
 息が、出来ない。
 呼吸が、出来ない!

 苦しむ愛美を見て、篤は満足そうに声をたてて笑った。

「分かっていたのだろう? これはユメだと。なのに、あなたは、自らその幻想に溺れたのだ」

「ねえちゃんを離せぇッ!」

 アークは咄嗟に首飾りから剣を取り外し、篤に切りかかった。

 愛美を掴んだまま、篤は飛びすさってその一撃をかわす。

「これは、アーチボルドの聖剣ではないか。ほう、では少年がギュンターの言っていた道化か」

「誰が道化だぁッ!」

 アークはすかさず、二撃目を放った。
 空を裂く剣圧が愛美の髪を巻き上げるが、刃は篤に届かない。

「読みやすい太刀筋だな」

「ぜぇぇぇイッ!」

 アークは挑発を聞き流し、渾身の一撃を打ち込んだ。篤の目が僅かに見開かれる。

 篤は愛美を掴んでいた手を離した。
 咳き込みながら愛美は大地に落ちる。

「――面白い」

 篤は素早く喉元に手をやると、首飾りから剣を取り外した。

 火花を散らして二振りの聖剣がぶつかりあう。

「少年よ、道化の役割を心得ているようだな」

「う、るさ、い……!」

 ギリギリとアークは聖剣を持つ手に力をこめた。だが、受け止める篤の剣はピクリとも動かない。

「くそっ」

 アークは、篤の腹に蹴りを叩き込むと、後ろに飛んで間合いを取った。

 アークの心を受け止めたのか、聖剣が眩しい聖光を放つ。

「ふむ。まんざら道化というわけでもなし、か」

「てめえ、何者だ! アツシはな、しないぞ、絶対に! ねえちゃんを苦しめることはな!」

 篤は聖剣を振りかざすと、勢いよく大地に突き刺した。

「私はギュンターのように愚かではない。未来の憂いはどんな小さな芽でも摘ませてもらうとしよう」

 大地の亀裂から、すさまじい邪気と闇が迸り、アークと愛美を包む。

「ね、ねえちゃんっ!」

 アークは咄嗟に、倒れたままの愛美に駆け寄った。


 ――聖ディーア神殿。シルマリオンの私室。


「――!」

 邪気!

 身体を駆け抜ける邪気に、シルマリオンはまどろみの世界から引き戻された。

 頭を一度振って意識を覚醒させ、ベッドから飛び降りる。

「この波動は呪鬼のバルタザル……!」

 着替えもそこそこに部屋を飛び出すと、同じように上着に手を通しながら通路を駆けてくるフィランダーと出くわした。

「フィランダー!」

「シ、シルマリオン! これ、バルタザルの……!」

「ああ。フィランダー、アークとアミを連れてきてくれ!」

「わ、わかった!」

 シルマリオンは巫女姫の間へと駆けながら、途中ですれ違う神殿兵達に神殿の守備と街の警護の指示を出す。

「ディアナ様!」

 巫女姫の間に行くと、すでにディアナは転送の水輪を開いていた。

「シルマリオン、少しでも眠れたでしょうか……。こんな時刻だというのにあなた方を戦いに送り出さねばなりません」

「ご心配には及びません。それが我らの責務です」

「ごめんなさい……。わたくしの力がおよばぬばかりに」

 辛そうなディアナに向かってシルマリオンは笑顔で首をふった。ひざまずき、ディアナの手を恭しく取る。

「お忘れですか。私は聖弓の騎士であると同時に、ディアナ様の騎士でもあります。何もお心を痛められる必要はない。ディアナ様はただ命じて下さればいいのです。戦え、と」

「シルマリオン……」

「直に皆揃います。ご安心ください」

「――ええ」

 しかし。

「シ、シルマリオーンッ!」

 血相をかえたフィランダーが巫女姫の間に飛び込んでくる。

「どうした、フィランダー」

 声色にただならない物を感じて、シルマリオンは振り返った。

「お、おかしいんだっ、アミも、アークもいない! さ、捜したけど、二人とも見当たらなくてっ」

「なんだって!?」

 はっとシルマリオンは息を飲んだ。

 突如発生したバルタザルの邪気。
 行方のわからぬ二人。

「まさ、か」

「シルマリオン、ね、ねえ、まさか」

 シルマリオンとフィランダーは同時に同じ答えにたどり着いた。

「二人はバルタザルと!?」

「た、大変だっ」

 ようやっと剣術の基本らしきものを身につけたばかりのアークと、支援の能力を主とする愛美の二人では、どう考えても勝ち目がない。

「ディアナ様、転送を――」

 急いでお願いします、とシルマリオンが言おうとした瞬間、悪鬼の襲来を告げる警報が鳴り響いた。

「なっ……」

 これは、ディアマント北部の街の危機を知らせる音だ。

「同時にっ……!」

 フィランダーの顔から血の気が落ちる。

 シルマリオンはぎゅっと拳を握り締めた。

 ディアナが水鏡を作り上げると、そこに街を破壊するギュンターのグールの姿が映し出される。

「シルマリオンッ」

 フィランダーの声からは余裕が消えていた。シルマリオンでさえ叫びだしたくて堪らないのを必死にこらえているのだ。

 どうする、どうする、どうする!?

「ディアナ様……、北部へ転送を」

「シルマリオン、ア、アミ達はっ」

「二人がバルタザルと対峙しているのなら、呪鬼のバルタザルは聖剣の騎士と聖杖の騎士に任せる」

「シ、シルマリオン!」

「どこか別の場所にいるのなら、探索は後回しだ。バルタザルは天都に近い所にいるが、こちらへ進攻する様子は幸いまだない。ならば先にギュンターを討つ!」

 ふ、とシルマリオンは笑った。

「覚悟を決めろ、聖魔の騎士フィランダー。ギュンターはオレとお前で倒すんだ」

「……わかった」

 キッとフィランダーの瞳が鋭くなる。

「時間がない。急ごう、シルマリオン!」

「転送します!」

 ディアナの祈りが水輪に満ちた。

「ディアナ様、ギュンターを討ち次第、バルタザルの元への転送をお願いします」

「わかりました」

 にこ、とシルマリオンは微笑んで水輪に飛び込んだ。フィランダーもディアナに頷いてシルマリオンに続く。

「神よ……! どうか騎士達にご加護を。シルマリオンを、フィランダーを、アミを、アークを、どうかお護りください……!」

 ディアナの祈りは千にも響いて、聖なる水を震わせた。

 シルマリオンとフィランダーは転送の輪を駆け抜けながら、巨大甲冑ゴッドメイルを呼ばわった。

「招来! 聖弓の騎士スタンレー! 我が『S』の魂に呼応せよ!」

「招来! 聖魔の騎士パーシヴァル! 我が『P』の魂に呼応せよ!」

 首飾りが振動する。
 天空神殿のゴッドメイルが共鳴しているのだ。

 二人が転送の輪から飛び出すと同時に、空気を鳴動させ、ゴッドメイルが天空神殿から飛来した。

『来たか、騎士ども、ケケケケケ!』

 街を腐食させ、踏みにじったグールが、楽しそうに叫ぶ。

『カァッ!』

 グールは大きく息を吸い込むと、ゴッドメイルと一体化した二人に向かって、毒の霧を吹きかけた。

 スタンレーとパーシヴァルは左右に飛んで別れ、それをかわす。

『ほう、聖弓と聖魔の騎士のみか! バルタザルの策は成功したらしいな』

 グールの哄笑により、二人は愛美とアークがバルタザルの元にいることを確信した。

『アーチボルド亡き今、貴様達の狙いはやはりアポロニアか』

『そうよ』

 聖弓を構えるスタンレーに向かい、油断なく腰を落としながらグールが答える。

 ドス黒く変色した舌が、いやらしく口元をなめた。

『本来アツシを滅ぼした時の術は、対アポロニア用に練られたもの。我らの目的は当初から癒しの力を持つアポロニアよ! 回復の手段を失えば、貴様達など、もはや翼をもがれた鳥に等しいからなあ!』

 閃光がきらめき、スタンレーが光の矢を放った。

 グールの黒い翼が大きく伸び、羽ばたく。
 生まれた腐食の風が、光の矢をちぢに消し去った。

『アツシを滅ぼした術は、冥王陛下のお命を縮めるもの。そう度々使えぬが――、今回はバルタザルの新たなデスローブが有効だったらしいな』

 グールはそのまま宙へ舞い上がると、腕を交差させ、錐揉み状にスタンレーに襲い掛かった。

『あやつのデスローブは、人の心の隙をつく。血の涙を流して、弱者は滅びるのよ!』

『愚かだな、ギュンター!』

 聖弓を収めたスタンレーは、気合一閃、黒い旋風と化したグールに拳を叩き込んだ。

『ゲァッ!?』

 こめかみを打たれて、グールはよろめく。

『ご丁寧に、敵であるオレ達に情報を与えてくれるのか?』

『死出の手向けよぉッ!』

 大地を蹴って、グールはスタンレーに爪を振りかざした。

 スタンレーは素早くもう一度聖弓を構えると、ギリギリまでグールを引きつけて矢を放った。

『撃ち抜け、光の矢!』

 バキィン! と鈍い音をたてて、グールの爪が折れ飛ぶ。

『なにっ!?』

 半ば防御を無視した攻撃に、グールはたじろいだ。残った爪がスタンレーの胴を裂くが、スタンレーは揺るがなかった。腐毒に焼かれながらも、間髪を入れず矢を射続ける。

 グールは腕を振り上げて、降り注ぐ矢を払った。

『ええい、目障りな……!』

『白き風、疾き風、清き風よ。召喚の門をくぐり三界から現れよ』

 突如グールの真横に、パーシヴァルの魔方陣が現れる。隙をうかがっていたフィランダーが攻撃をしかけたのだ。
 空気のうねりを感じ、グールは身をひるがえすが、スタンレーの矢がその動きを封じた。

『敵を刻め! ゲールペイン!』

『グァァァァァッ!』

 白い風がカマイタチとなって、グールの身体を切り刻む。吹き上がる紫の血すらも、白風は切り裂いた。

 肉をズタズタに裂かれ、グールは醜悪さを一双深める。

『お、おのれ、聖魔ごときが……!』

『なめるな、ボクも騎士だッ!』

 パーシヴァルのガントレットに聖光が集まる。聖光は尾を引きながら、魔方陣となった。

『紅き炎、猛き炎、清き炎よ。召喚の門をくぐり三界から現れよ』

 現れた三色の炎がパーシヴァルを鮮やかに照らし出す。

 畳み掛けるような攻撃は、フィランダーの焦りの表れでもあった。言葉ほどの余裕はないのだ。一刻も早くギュンターを倒し、愛美達の救出に向かわねばならない。

『敵を討て、トリプルブレイズ!』

 ふくれあがった炎は螺旋をえがいてグールを包み込んだ。

 たけり狂う炎がグールを閉じ込め、焼き尽くす。黒い影が、炎の中で膝をついた。

『とどめを……!』

『危ない、フィランダー!』

 新たな魔方陣を描こうとしたフィランダーに向かって、シルマリオンが叫ぶ。

『――!!』

 炎を切り裂いたそれが、パーシヴァルの肩を刺し貫いた。

『くぅっ』

 ぱっくりと裂けたグールの身体から、右の肋骨が槍のように伸び、パーシヴァルを貫いている。

『口ほどにもないな、聖魔の騎士ッ!』

『うああっ』

 左の肋骨が、今度はパーシヴァルの腕を貫いた。

『フィランダー!』

『く、来るなァッ!』

 フィランダーはシルマリオンに叫ぶと、パーシヴァルに念を込めた。

『ボクの魂を受け取れ、パーシヴァル! ギュンターを倒すんだッ!』

『貴様!?』

 ズブリ、とグールの爪がパーシヴァルの甲冑に深く埋まる。

『な、何の真似だ!』

 パーシヴァルは、爪を自身の身体に刺したままグールに近づき、その肩をつかんだ。

『撃て、シルマリオン!』

『何ィっ!』

 グールはパーシヴァルを跳ね除けようとしたが、自身の骨によって動けない。

『聖弓よ……!」

 スタンレーは瑠璃の夜空に向かって聖弓を構えた。

 高く鳴る弓弦。

 放たれた矢が一条の光となって天に吸い込まれていく。

『ケケケケ! 何処を狙っている! 腐毒に頭がやられたか!』

『――光の導きにより天より降れ、メティオストライク!』

 夜空にきらめく星の光が鋭さをます。
 星は矢となり、グールめがけて降り注いだ。

『オオオオッ!?』

 天に浮かぶ星々を矢となすメティオストライクは、シルマリオンの体力を著しく消耗させる。大地そのものに与える影響も大きく、普段はシルマリオンが自ら禁じ手としている技だった。

 グールは逃れようともがくが、パーシヴァルがそれを許さなかい。

 どんどんと巨大な星の矢が近づいてくる。

『き、貴様、共に死ぬ気か!?』

『冗談』

 パーシヴァルは傷ついた右手を、グールの胸に押し当てた。

『滅びるのは、お前だけだ!』

『!?』

 パーシヴァルは魔法力を全て聖光に変え、グールに打ち込む。衝撃で、グールの爪がパーシヴァルから抜けた。

 ゴッドメイルの欠片をばら撒きながらも、パーシヴァルはスタンレーのメティオストライクの照準から逃れる。

 対してグールはパーシヴァルの聖光によって天に舞い上げられていた。

『馬鹿な……!』

 翼を広げることも叶わないグールの背を、巨星が撃った。

『グガァァァーッ!』

 ドン、ドンッ! と大地を穿つ星が降る。

 グールは星の嵐に乱打され、大地に叩きつけられた。

『ま、まさか、まさか、聖魔と聖弓ごときにぃぃぃ!』

 ひしゃげた腕を持ち上げ、グールは叫ぶ。
 それが、腐鬼のギュンターの最期だった。

 空をつかむ歪んだ指が、ザッと灰になる。指先からサラサラとグールの身体が崩れていった。

 灰が夜の風に巻き上げられ、後には血染めのローブと、仮面だけが残される。

『フィ、フィランダー!』

 ギュンターの絶命を確認したスタンレーが、よろよろとパーシヴァルに近づいた。

 スタンレーとパーシヴァルが光に包まれ、ゴッドメイルとの一体化が解除される。

 シルマリオンは腐毒に犯された脇腹の傷に顔をゆがめながら、倒れたフィランダーを抱き起こした。

「フィランダー、しっかり、しろ……!」

「シルマリオン……?」

 うっすらとフィランダーが目を開く。

「無茶をしてっ!」

「き、キミだって」

 目じりを下げて、フィランダーは笑った。

「――でも、撃ってくれるって、信じてた」

「当たり前だっ、どれだけ一緒に戦ってるんだっ」

 フィランダーはシルマリオンの手を借りて、何とか立ち上がった。

「動けるか」

「うん、だい、じょうぶ。行こう。行って、ア、アミとアークを、助けなくちゃ」

「ああ」

 二人とも満身創痍だったが、瞳から力は失われていない。

「ディアナ様、転送を……!」

 水鏡で戦いを見守っているはずのディアナに、シルマリオンが呼びかける。

 サラリと二人の頬を撫でるように水が走った。

 清めの水が新たな転送の輪をつくる。

 シルマリオンとフィランダーは、互いを支えあって、転送の輪に足を踏み入れた。

 戦いは、終わらない。


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