ディアナ「ようこそ、異界の騎士よ」
篤「俺と愛美が騎士……?」
愛美「兄さん」
新感覚戦闘シーン! リアルタイムスキルコマンド搭載。
始まりの騎士、若槻篤の戦いを描くストーリー。
フルヴォイスでおくる感動のイベントムービー。
篤「運命には負けない。俺はこの手で世界を護る!」
PSD RPGソフト「百光のアーチボルド 始まりの騎士」
九月二十日発売! 七大特典付限定版同時発売!
キミは騎士の魂を知る。
Sory
「フィランダー、大丈夫……?」
「う、うん。もう、大分楽だよ。ありがとう、アミ」
愛美の細い手に髪を撫でられ、ベッドに横たわるフィランダーは、はにかんで微笑んだ。
「まだ少し熱があるわね……。アポロニアの癒しの力を使ったのに、毒が浄化しきれないなんて」
「浄化に時間がかかるだけだよ。ディ、ディアナ様もそう言ってただろ? やっぱり新しいデスローブは手ごわいね」
「うん……」
ぽたり、とフィランダーの頬に愛美の涙がしたたり落ちる。
「ア、アミ?」
「兄さんも……、篤兄さんにも……、癒しの力が間に合わなかったわ……、わたし、わたし、それしか力がないのに……。それだけしか、役に立たないのに……」
「ア、アミ」
フィランダーは身体を起こすと、おそるおそる手を伸ばし、愛美を抱き寄せた。
「死んじゃ、イヤ……。もう、誰も、篤兄さんみたいに死なないで……!」
「アミ、泣いちゃダメだ。ほら、ボ、ボクは元気だよ。ボクだけじゃない。シルマリオンだって、キミのそばにいる。だ、だから、大丈夫。泣かないで。ね?」
フィランダーの不器用ななぐさめに、愛美の涙はますます止まらなくなった。
フィランダーは、黙って愛美の髪をなでる。かつて、篤がそうしていたように。
「ご、ごめんなさい、フィランダー!」
やがて泣き止んだ愛美は、頬を赤くしてフィランダーから離れた。
「う、ううん、いいんだ」
くすりとフィランダーは笑う。
「アミって、し、しっかりしてるけれど、意外と泣き虫だよね」
「……フィランダーに言われるのは、心外だわ」
ぷっとふくれる愛美をみて、フィランダーは声をたてて笑った。
「あいたたた」
「フィランダー」
「へ、平気、平気。ボク、ちょっと眠るね」
「うん。……ありがとう、フィランダー。上着、つくろっておくわね」
「うん、おや、すみ、アミ……」
疲れていたのだろう。フィランダーはすぐに、すうすうと可愛らしい寝息をたて始めた。
愛美はフィランダーの上着をとると、眠りを邪魔しないようにそっと部屋を出た。
「おっと」
部屋を出たところで、アークを連れたシルマリオンと鉢合わせする。
「アミ。フィランダーの具合はどう?」
「ええ、まだ毒が残っていて少し苦しそうだったけれど、時と共に浄化が満ちるとのことだから……」
「そう、よかった」
シルマリオンの優しい笑顔は、誰の心をもあたたかくする。愛美も、ほっと心がゆるむのを感じた。
「よかったなー」
ヘヘッとアークも笑った。
ぴくりと、愛美が眉を持ち上げる。
「調子のいいヤツだな、お前は……」
シルマリオンは呆れてアークの後頭部を小突いた。
「シルマリオン、この子、どうするの……?」
「今から特訓。さっきの調子じゃ、まるで使い物にならない」
「そうじゃなくて」
ん? とシルマリオンは首をかしげた。
「仲間として、認めるの?」
ふう、とシルマリオンは大きなため息をついた。
「アミの言いたい事はわかるよ」
けどね、とシルマリオンは続ける。
「正直、今日はヤバかった。アミも感じただろう?」
「――それは」
「えっ、ヤバかったの!? なんか、アンタ、えー、シルマリオン? 余裕しゃくしゃくじゃなかった?」
コツン、ともう一度シルマリオンはアークの後頭部を小突く。
「敵に弱みを見せてどうする」
「あ、そっか」
「教えがいありそうだなー……」
特訓の困難さを見せ付けられて、シルマリオンはくらくらする頭をもんだ。
「ともかく、腐鬼のギュンター。ヤツは冥国の三魔将の中では明らかに格下だ。なのに、今日の戦いは辛いものがあった。ギュンターがアツシがいないからと、オレ達をなめきってなかったら、もっと苦戦しただろう」
「……そうね、確かに、そうだわ」
「オレ達は、四体そろって初めて真の力を発揮できる。ゴッドメイルはそういう風につくられているから」
「どーいうこと?」
「つまりだな、アーチボルドは近距離攻撃型、スタンレーは中距離攻撃型、パーシヴァルは遠距離攻撃型で、アポロニアが後方支援型なんだよ」
「えーと?」
えへへー、と笑うアークにシルマリオンは天を仰ぐ。
「だからっ、それぞれ得意とする事が異なるんだっ。オレとフィランダーでも、もちろん攻撃の手段はあるけれど、やっぱり攻撃の要はアツシ、つまりアーチボルドなんだよ」
「ってことは、オイラ!?」
「……あつかましい」
「なんだよぉ」
「今のお前は、まだアーチボルドを呼べもしないだろうがっ」
「そうよ、呼べないわ。だから、この子は騎士じゃない」
かたくなに愛美はそう言った。
「アミ。今は、まだ、だ」
「――」
「正直、オレは今日バルタザルが引いてくれて安堵したね。あのままだったら、確実にやられてた」
愛美はギュッと拳を握り締める。
シルマリオンは、優しく愛美の肩に手を置いた。
「アミ。君だって、わかってるだろう? 感じてるはずだ。オレ達には君の半身である『A』の魂が、アーチボルドが必要なんだ」
「そうよ! わかってるわ! 戦うためには、どうしても、アーチボルドが必要だって! でも、でも、わたしは認めない! こんな、こんな子が、兄さんの霊廟を荒らすような子が、わたしの半身だなんて……!」
愛美はくるりときびすを返すと、その場を走り去った。
アークは耳に指をつっこんで顔をしかめる。
「声でかいっての。すげーヒステリーでおっそろしい女だなあ」
「アミは優しいよ」
アークの手をとって、フィランダーの部屋から離れながらシルマリオンは言った。
「アミは、すごく真面目で優しい。とても頑張りやさんなんだ」
「ふーん、そうかなあ」
「お前だって、今日、アミに助けられただろう?」
う、とアークは言葉につまる。
「助けられたけど! でも、その前にあいつに殴られた!」
「それはお前がアミを刺激するようなセリフを吐くからだ」
「う?」
「言っただろう、アミは真面目だって」
「あー、それはつまり、オイラがかっこいいって言ったのが、気に入らなかったのね」
「それだけじゃ、ないけどね」
シルマリオンは目を細める。
「パーシヴァルは神の魔法力から……」
「あん?」
「スタンレーは神の弓から……」
「シールマーリオーン?」
アークは背伸びして、シルマリオンの前でぴらぴらと手をふった。気にせずシルマリオンは続ける。
「――アーチボルドは神の剣から作られた。聖なる騎士は時の冥王軍と激戦を繰り返し……、徐々に傷ついていった」
アークは指を折って騎士の数を数えた。
「アポロニアは?」
「初め、騎士は三体だったんだよ。けれどあまりに戦いが激しくて、癒しの力をもった騎士が後から作られたんだ」
「へえっ、それがアポロニア?」
「ああ。アーチボルドの一部を切り分けて作られたのさ。だから、アーチボルドとアポロニアは、共に『A』の魂に呼応するんだよ。アーチボルドとアポロニアは二つで一つなんだ」
アークは足を止める。
「二つで、一つ……」
「そう。アツシとアミが正にそうだった。二人は双子でね。こっちの世界に来るまでも、いつも、何をするにも二人一緒だったらしい」
アークは、聖剣の騎士と聖杖の騎士が異世界から召喚されたという事を思い出した。
「そっか、あいつ、別の世界の」
「ああ。皮肉にも、この世界に『A』の魂を持つ者はいなかった。ディアナ様が捜して、捜して、やっとあの二人が見つかったんだよ。初めは二人とも随分戸惑ってた。二人がいたニホンって所は平和で、戦いなんかとは無縁の世界だったらしいから」
シルマリオンの脳裏に、やって来たばかりの篤と愛美の姿がよぎる。
『騎士……? 俺と愛美が……?』
『兄さん、篤兄さん、わたし、帰りたい。お母さんやお父さんに会いたい……』
『愛美、泣くな。俺が一緒だ。絶対に離れない。この手を絶対離さないから』
『うん、うん、兄さん』
『俺達が騎士になることで世界を、日本を護ることが出来るなら、俺は剣を取る』
『わたしも。兄さんが戦うなら、わたしも戦うわ。わたし達はいつだって一緒よ』
「……怖かったと思うよ。突然家族から切り離されて、見知らぬ世界へ来て、戦えと言われて……。でも、二人は、自分自身で騎士となる事を選んだんだ。冥王オスヴァルトをこのままにしておけば、いずれはニホンにもその魔手はのびるからね。覚悟を決めた二人は、恐ろしいまでに真剣だった」
さすがのアークも黙り込んでしまった。
「オレとフィランダーも、そんな二人に心をうたれた。負けられないって思った。それ以上に、二人を好きになった。……オレ達はうまくやってたと思う」
「――でも、アツシは死んだ」
「そう。もう、アツシはいない。アーク、お前がアツシの『A』の魂を引き継いだんだ。お前は、アミの半身にならなきゃいけない」
「なあ、シルマリオン。オイラ、もしかして、あのねーちゃんをすげー傷つけたのか?」
「まあね、大好きな兄さんの廟を荒らされたら、心穏やかではいられないとは思うよ」
「そんなつもりじゃなかったんだッ!」
アークは拳を握り締めて叫んだ。
「オイラ、べつに、アツシの眠りを妨げようとか、そんなつもりじゃなかったんだ! ただ、すげー腹がへってて。神殿だったら何かウマイもんがあるかと思って忍び込んで。そしたら、あの部屋の窓が光ってて……。呼ばれたような気がしたんだ」
「ウマイものって、アーク。そうだ、お前、家は? 家族は? 連絡を……」
「ないよ」
「ない?」
「家なんてない。かーちゃんも死んだ。悪鬼に村ごと全滅させられたんだ」
シルマリオンは息を飲んだ。
「――ごめん」
「なんでシルマリオンが謝んの? ……ああ、騎士だからか」
へへっとアークは笑った。
「気にすんなよ。別にあんた達のせいだとか、巫女姫のせいだとかは思ってないからさ。――でも、そっか、そうだよな。オイラだってかーちゃんを馬鹿にされたり、かーちゃんの思い出を踏みにじられたら、ハラたつもんな」
「アーク、お前」
「ちょっとねーちゃんに謝ってくるよ。特訓はそれからでもいいだろ、シルマリオン」
「ああ。でも、その前にアーク」
「ん?」
すっとシルマリオンは右手を差し出した。
「本当に、悪かった。オレ達の都合ばかり押し付けたな。思えばお前の話をきいていなかった」
「いいって、いいって。オイラ賊だしなー! 神殿の食い物かっぱらおうと思ったのは間違いないし」
アークはシルマリオンの右手を握り返す。
「今日から、オレ達は仲間だ。よろしく頼むよ、聖剣の騎士アーク」
「おう。ひよっこだけどな!」
「安心しろ、そこはしごいてやる」
げー、とアークは笑った。
「じゃあ、行ってくるぜ!」
アークはシルマリオンに手をふると、元気に駆けていった。
「――アツシ」
シルマリオンは、今は亡き友に語りかける。
「お前の護りたかった世界は、オレ達で必ず護るよ。オレと、フィランダーと、アミと、そして、アークで」
―― 一週間後。聖ディーア神殿。訓練室。
「うわあー! まって! まって、フィランダー!」
「て、敵が待ってくれるかー!」
「ギャー!?」
アークの顔すれすれを、フィランダーの氷の剣が刺し貫いた。
ぱさりとアークの赤毛が一房切り落とされる。
アークは床に座り込むと、練習用の剣を放り出して情けない声を上げた。
「なんだよー、初心者相手にムキになるなよー!」
「バ、バカッ。いつまで初心者のつもりでいるんだっ。剣は聖剣の騎士のオハコだろ! 聖魔の騎士より弱くてどうする!」
「だって、アンタ強いんだもんよー」
「え。い、いや、それほどでも……、じゃなくてー!」
そばで見ていたシルマリオンは、こらえきれなくなってふきだした。
「いいコンビだなー」
「シ、シルマリオーン……」
フィランダーはうらめしげに、シルマリオンをにらむ。
「まあ、そう言うな、フィランダー。アークも最初に比べたら、随分動きがよくなっただろ」
「う、うん。それは、確かに」
「え、ほんと!?」
顔を上気させたアークに向かって、シルマリオンとフィランダーは頷いた。
「まあ、小鬼相手ならなんとかなるんじゃないか?」
「あ、あくまで最初に比べたら、だからね!」
容赦のない言葉に、アークはがっくりとうなだれる。
「小鬼って雑魚じゃんかー! かっこわりー……」
アークがぼやいた瞬間、がちゃりと扉が開かれた。大きな盆を持った愛美が入ってくるのを見て、アークは慌てて口を手で押さえる。
「ん?」
不思議そうな顔をするフィランダーに向かって、アークは耳打ちした。
「あのねーちゃんの前で、かっこいいとか、かっこ悪いは厳禁なのっ」
「あ、ああ、そういうことかぁ」
フィランダーは、くすくすと笑った。
「お疲れ様、シルマリオン、フィランダー。軽食を持ってきたわ」
「ありがとう、アミ」
シルマリオンは盆を受け取って、かけられていた布を取り払った。
「うわ、お、美味しそう!」
のぞきこんだフィランダーが歓声をあげる。
盆の上には、野菜と卵のサンドイッチ、果物のジュースのグラスが並んでいた。きちんと三人分そろっている。
「このサンドイッチ、二人とも好きでしょう?」
「う、うん、ボク大好きだ」
素直にそう言うフィランダーに向かって、愛美は笑顔で頷いた。
「それじゃ、少し休憩したら、またがんばってね」
「ああ。アミもよかったら見ていかないかい?」
シルマリオンの誘いを、しかし愛美は首をふって断った。
「ごめんなさい、シルマリオン。わたし、少し出かけたいの」
「どこへ?」
「街まで。新しいお花を買わなくちゃ。他にも薬とか、買出し頼まれてて」
「そう。今日は付き添えないけれど、気をつけるんだよ」
「ありがとう」
「ア、アミ!」
フィランダーはポケットから、ごそごそと小銭を取り出すと愛美に渡した。
「アツシのお花でしょう? だ、だったら、ボクの分もお願い。青い花がいいな。ア、アツシ、青が好きだったから」
「うん。ありがとう、フィランダー」
ふわ、と花のように笑うと愛美は手を振って出て行った。
「さて、じゃ戴くとするか」
シルマリオンがフィランダーとアークに、愛美の差し入れを配る。
アークはどことなく不機嫌そうだ。
「どうした、アーク」
「……ねーちゃん、またオイラのこと無視した」
サンドイッチをほおばりながら、アークは口を尖らせる。
「? さ、差し入れはちゃんと三人分あるじゃないか」
「ちっがーう! そーいうことじゃないのッ」
鈍いフィランダーに、アークは拳を突き上げた。
「こっちを見ない。名前も呼ばない」
「あ、そ、そう言えば」
サンドイッチを飲み込みながら、フィランダーは納得した。
「でも、許してもらったんだろ?」
「うん……」
アークはシルマリオンに頷いた。
確かにあの夜、アークは愛美に素直に詫び、自分の事を話し、そして許しをもらったのだ。
しかし、愛美はとげとげしい態度こそ収めはしたものの、それ以来アークと言葉を交わそうとしない。まるで、アークがそこにいないかのように振舞う。
「許してもらったハズなんだけどサ」
アークはゴクリとジュースを飲みくだした。
「やっぱねーちゃんは手ごわいなあ。この単純にーちゃんとは大違いだ」
「え? え? え? た、単純って、まさかボクのこと!?」
「アンタ以外に誰がいんだよ、誰が」
アークはフィランダーにも愛美と同じように謝り、同じ話をしていた。
元々気のいいフィランダーは、それで大分アークに対する心象を良くし、今に至るわけだが。
フィランダーは反論しようと口を開きかけて、そのまま言葉を飲み込んだ。
アークがいつになく真剣な眼差しでうつむいていたからだ。
「オイラが――、オイラがもっと強くなったら、ねーちゃんも名前呼んでくれるかな」
「アーク」
「オイラが、アツシみたいに強くなったら、ねーちゃんも……」
アークは大急ぎでサンドイッチとジュースを片付けると、剣を手に立ち上がった。
「よーし、やるぞ!」
「アツシみたいに、か」
ふふ、とシルマリオンが笑う。
「じゃあ、フィランダーとの特訓が終わったら次はオレとの格闘訓練だからな」
「おう! フィランダー、さっさと食っちまえよ!」
最後のサンドイッチをほおばったフィランダーは、きちんとごちそうさまをすると、パンくずを払って立ち上がった。
「よ、よし、本気でいくからね」
ジャキン、ジャキンとフィランダーの両手に氷の剣が生える。
「え、お、ちょ、二刀流ー!? 卑怯っ、それ卑怯ー!!」
「て、敵はいつだって卑怯だー!」
「ギャー!?」
シルマリオンは笑って、剣をぶつけ合う二人を見守った。
スッとその表情が真剣になる。
「一週間、か。敵が動くならそろそろだな……」
シルマリオンの呟きは、アークとフィランダーの元気な声にまぎれて風となった。