舞い落ちる雪が、雪原を行く少年の髪を飾る。 少年は、立ち止まると白い息を宙に漂わせた。 「もう少し・・・」 呟いたその声さえ、雪が白く凍えさせ、遥か彼方へと連れ去っていく。 けぶる雪の向こうに、いくつかの淡い光がまたたくのを、少年の飴色の瞳は確かに捕らえていた。あの光は、目指す街の明かりに違いない。 ・・・・・・なのに、少年の脚は動かなかった。 そっと腕を差しのべ、舞い散る雪を手のひらに乗せる。 あまりの寒さの為か、それは肉眼でも結晶の形として、捕らえる事が出来た。 「六花・・・」 ”雪は、その結晶の形から、「六花」とも言うそうだ。” そう教えてくれたのは、誰だったか。 六花が降る。 幾つも、幾つも、空から舞い降りる。 そして、髪を飾る。少年の茶色の髪を。 「まるで、ベールだ。花嫁の」 少年は奇妙に顔をゆがめた。 「花嫁のベール! このぼくに!!」 ひとしきり笑うと、スッと少年の顔が無表情になった。 「何を考えてるんだ馬鹿ばかしい。こんな所で白昼夢を見ているヒマはないんだ」 そんな事よりも食事だ、と少年は思った。 暖かい暖炉の傍で、熱いスープを飲み干したかった。 身体は激しく食事と休息を求めている・・・・・・ そして、目指す街はすぐそこに迫っていた。 だが、やはり少年の脚は動かない。 理由のわからないその恐怖感に、少年は短く舌打ちすると、己を叱咤した。 「しっかりしろカレブ。滅びたこの国で生きていくには、あの街の門をくぐるしかないんだ」 少年、カレブは頭を振って、己の髪につもった雪を払い落とした。 「あそこには、人がたくさんいる。人が多ければ多いほど、ぼくの仕事は楽になる。だから、わざわざ来たんじゃないか」 ごうっ、と風がうなり、雪が嵐のように舞った。 それは、まるでカレブを誘っているようにも見えた。
「行かなきゃ。このままじゃ、本当に凍えちゃう」 そう言った途端、呪縛から解放されたかのように、脚が動いた。 大地につもった雪をサクサクと踏み分けて、カレブは街の門をくぐった。 |