序 幕 邪 剣 | |||||
「また、剣の練習相手に酷い傷を負わせたそうだな」 ガリオン領主、ミゲル=クスバードの厳しい声が、美しく整えられた中庭に響いた。 「相手が弱いからです。怪我したくないなら、一生懸命稽古して強くなればいいんだ」 ミゲルの視線を受け止めて、悪びれもそずそう言い放ったのは、彼の幼い次男だった。 「スティン……」 ミゲルは次男の愛称を呼ぶと、ため息をつきながら首を振った。 「どうして父上は、僕をほめて下さらないんですか? 毎日ちゃんと稽古して、こんなに強くなったのに!」 クリスティンは目に涙をため、訴え続けた。 「剣の先生は、ちゃ、ちゃんとほめてくれる! でも、父上と母上だけは絶対に僕をほめてくれないんだ!」 ミゲルは、クリスティンの叫びを黙って聞いていたが、それに答える事なく背を向けた。 「父上、どこに?」 「お前が怪我をさせた子供の見舞いへ行く」 父の言葉に、クリスティンはカッとなった。手の中の木剣が、ミシリと嫌な音をたてる。 「僕が悪いんじゃない! なのに、どうして領主である父上が、部下の子供に謝るのですか!」 ミゲルは歩みを止めると、振り返った。 「――息子よ。その考えは、とても危険だ」 ミゲルは低くそう言い残すと、中庭を後にした。 ガリオンに剛剣ありと称えられた己の血を、クリスティンは存分に引いているらしい。 「巧くはいかないものだな」 ミゲルの苦々しい呟きは、回廊の冷えた空気に溶け、消えていった。 |
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