戦闘で手に入れた妖鳥の爪やら、スライムの粘液やらをギルドで見せ、褒賞をもらったカレブは驚いた。

「へえ、こんな物が、これだけのお金になるの」

「な。けっこう、もうかるだろ?」

 リカルドは、得意げにそう言った。
 少し、誇らしそうだった。

 ぷっ、とカレブが笑ったので、リカルドは眉間に皺を寄せた。

「・・・今、手前がなんて思ったか、当ててやろうか」

「うん?」

「単純だなあ。とか、思っただろ」

「違うよ」

 お? とリカルドは意外そうな顔をする。

「そうか、俺はてっきり・・・」

「単純で、わかりやすくて、子供みたいだなあって思ったんだ」

「あ、そ」

 リカルドの顔が引きつった。
 まさか、三つも重ねて言われるとは、思っていなかったらしい。

 本当にわかりやすい奴だ、とカレブは思った。

「まあいいや。これで、手前も宿代には困らないだろ。良かったな」

 無骨な手が、くしゃりとカレブの頭を撫でた。
 思いもかけないその優しい仕草に、カレブは驚いた。

 これだけ言ってもへこたれないとは、根性があるのか、本気で馬鹿なのか。

 後者だな、とカレブは決め付けた。

 さりげなく、リカルドの手をどける。

「じゃあ、今日はこれで解散?」

「ああ、そうだな。グレッグもそれでいいか」

「・・・ああ」

 言葉少なにグレッグは答える。

 やっと一人になれる、とカレブはほくそえんだ。
 あの剣士に目をつけられている以上、うかつに逃げ出す事は出来ないが、迷宮に入らない時までこの連中と一緒にいる必要はないだろう。

 群れるのが嫌いなカレブは、本当にうんざりしていたのだ。

「どうした、元気ないな」

 リカルドがグレッグの顔を覗き込む。

「いや・・・」

 グレッグは苦笑しながら、首を振る。

「まだ、落ち込んでるのか? まあ、確かに今日の探索は上出来とは言えないが」

 今日は結局、魔物との戦闘にてこずり、一階の最深部まで行く事は出来なかった。
 入り口の辺りをうろうろして、魔物と数度戦っただけだ。

 一歩進むごとに精彩を欠いていくグレッグが原因だと、言えなくもない。

「迷惑をかけた。すまない」

 低い声でそう言うと、グレッグは歩き出した。
 リカルドが、肩をつかんでそれを止める。

「待てよ、一人で抱えんなって。なんの為のパーティだよ」

 いやな雲行きを感じて、カレブはそっとその場を離れようとした。
 しかし、リカルドはそれをゆるさなかった。

 ひょいと伸びたリカルドの左手が、カレブの襟首をつかむ。

「よーし。それじゃ、酒場で一杯やりながら反省会だ!」

「冗談だろ、放せよ! 飲みたきゃ二人で行け!」

 リカルドはニヤニヤと笑った。

「まあ、そう言うなよ。おごってやるからさ」

「おごり?」

「ああ」

 カレブは、天使のような笑みを浮かべて見せた。

「じゃあ、行く。でも、遠慮はしないよ」

 一番高いのを頼んでやる。
 己のたくらみに、カレブは小さく笑い声をもらした。


 

 

 月夜亭の丸テーブルに着いたとたん、カレブはそそくさとメニューを広げた。
 とにかく一番高い奴を頼もうという魂胆だ。
 楽しそうなカレブを横目で見ながら、リカルドは片手を挙げて、給仕娘を呼んだ。

「注文、頼むぜ」

「はい」

「エールを壷ごと。後は、ソーセージの盛り合わせに、ベイクドポテト。それからとうもろこしの粥。三人前ね。あー、それで、こいつにはマルメロ酒でも持ってきてやって」

「かしこまりました」

 カレブが口を挟む間もなく、注文は終わった。
 風のように、給仕娘は去っていく。

「勝手に人のまで決めるなよ!」

 カレブは椅子に座ったまま、リカルドの向う脛を蹴る。

「いってえな! 手前は良く知らないだろうから、美味い物食わせてやろうって言う親ゴコロだろ!」

「誰が、親だ。誰が!」

「それに、高いもの頼まれちゃあ、やってられないからなあ」

「それが、本音だろ・・・」

 見事にたくらみをつぶされたカレブは、ふてくされた。
 こうなったら、とことん食べてやるしかない。

 まず運ばれてきたのは、酒だった。

 リカルドが、グレッグにエールを注いでやっている。

 カレブは、自分の前に置かれた果実酒を口に含んだ。
 ・・・・・・美味しかった。

 マルメロを酒に漬け込んだそれは、味がよくこなれていて飲み易い。
 香り高く、ほの甘く、体中に染みとおっていくかのようだ。

「美味いや」

 カレブは、小さく呟いた。
 リカルドに聞こえないように。

 顔を伏せていたカレブは、リカルドが、ちらりと満足そうに自分の方を見た事には、気づかなかった。

 熱い料理が、次々と運ばれてくる。
 大皿にもられたボイルドソーセージ。湯気を立てているベイクドポテト。黄金色に焼かれたとうもろこしの粥・・・

 狭いテーブルは、あっという間に埋め尽くされた。

 料理を食べながら、リカルドはあれやこれやとグレッグに話しかける。
 反省会と言いながらも、迷宮の事は口にしない。
 どうやら、グレッグを元気づけるのが目的だったらしい。

 カレブは、ソーセージをかじりながら、珍しい物でも見るかのようにリカルドを見ていた。

 どうして、こんな風に、ごく当たり前といった感じで、人に優しく出来るのかな。
 ぼくには、わからない・・・・・・

 リカルドは、まったくカレブの理解の範疇を超えた所に居た。そして、それがカレブをイライラさせる。
 これが、ごく普通の市民だったら、カレブもここまで思わなかったかも知れない。
 事実、助けてくれた村人達の親切には、カレブも素直に甘えていたのだから。

 では、何故。
 何故、リカルドの優しさに、こんなに腹がたつ?

 カレブは、ぼんやりと自分の心に問いかけた。
 暗い泉のような心の奥底から、ユラユラと答えが浮かんでくる。

 戦士が・・・・・・
 そう、命を賭けて戦う事を生業とする者が、優しいという事が、信じられないから。

 甘い、と思う。
 こんな調子じゃ、生きていけやしない、と。

 ぼくは、生きるために、いろいろな物を捨てた。
 優しさも、その一つ。

 なのに、リカルドは、それを手にしたまま戦士として生きている。
 自分に出来ない事を、この男は、している。

 ・・・・・・ああ、だから。

 クスリとカレブは笑った。

 だからぼくは、この男が嫌いなんだ。

 それは、なかなかに面白くない答えだった。